2026年9月、報道各社が発表した高市内閣の支持率は、最も高い日本経済新聞・テレビ東京の62%から、最も低い時事通信の44.1%まで、18ポイント近い差がありました。同じ月に同じ内閣について聞いているのに、なぜここまで数字が違うのでしょうか。2020年には、産経新聞とFNNの合同世論調査で、電話をかけずに入力された架空の回答が見つかり、1年分・14回の調査が取り消されています。世論調査は信用できるのか。過去の不正の経緯と、数字が各社で違う理由を検証します。
世論調査は信用できるのか、同じ月でも支持率に18ポイント差
| 調査主体 | 調査日 | 支持 | 不支持 | 調査方式 |
|---|---|---|---|---|
| 日経・テレビ東京 | 9月18〜20日 | 62% | 33% | 電話 |
| 産経・FNN | 9月12〜13日 | 61.6% | 32.2% | 電話 |
| 読売・日本テレビ | 9月17〜18日 | 59% | 30% | 電話 |
| テレビ朝日 | 9月19〜20日 | 58.3% | 27.6% | 電話 |
| 共同通信 | 9月17〜18日 | 53.4% | 30.9% | 電話 |
| NHK | 9月11〜13日 | 53% | 31% | 電話 |
| 朝日新聞 | 9月26〜27日 | 51% | 33% | 電話 |
| 毎日新聞 | 9月26〜27日 | 45% | 40% | インターネット |
| 時事通信 | 9月11〜14日 | 44.1% | 29.3% | 個別面接 |
数値は各社の発表を集計した選挙速報サイトとnippon.comなどによるものです。10月に入ってからは、JNNが63.0%、NHKが51%と発表しています。各社の調査は、9月17日の内閣改造の前に行ったものと後に行ったものが混ざっており、時期の違いも数字に影響しています。
数字の差は、どこかの社が間違っているからとは限りません。後で詳しく見るように、調査の方式や聞き方の違いで、数字は自然に変わります。しかし、世論調査の数字そのものが信用できない事態が、実際に起きたこともあります。
産経・FNNの世論調査で架空回答、14回分を取り消し
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発表 | 2020年6月19日、フジテレビと産経新聞が公表 |
| 対象 | 2019年5月〜2020年5月の合同世論調査、計14回 |
| 不正の内容 | 電話をかけずに、架空の回答を入力していた |
| 不正を行った会社 | 委託先のアダムスコミュニケーションから再委託された日本テレネットの、コールセンターの現場責任者 |
| 架空回答の件数 | 当初は約2,500件と報道。BPOの認定では1,886件(全体の12.9%) |
| 対応 | 14回分の放送と記事を取り消し、謝罪 |
電話をかけずに回答を入力、再委託先で起きた不正
ニューズウィーク日本版などによると、1回あたり約1,000人分の回答のうち、毎回100件以上が、実際には電話をかけずに入力された架空のものでした。BPOの意見書によると、不正があった会社では、電話をかけるシステムと回答を入力するシステムがつながっておらず、電話をかけなくても回答を入力できる状態でした。
無断の再委託と、委託先任せの管理
BPOによると、産経・FNNから調査を請け負った会社は、契約に反して、調査の半分を別の会社に再委託していました。フジテレビはそのことを知りませんでした。架空の回答は、この再委託先で入力されていました。調査を依頼した報道機関が、実際にどこで、どのように調査が行われているのかを把握していなかったことになります。
BPOは「重大な放送倫理違反」と判断
放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は、2021年2月、フジテレビに「重大な放送倫理違反があった」とする意見を出しました。フジテレビ自身は架空データの作成に関わっておらず、意図的に数字を操作したわけでもないと認めたうえで、架空のデータを含む世論調査の報道を1年余りの間に18本放送したことは、視聴者の信頼を大きく裏切ったと結論づけています。
担当1人の体制と「丸投げ」への批判
BPOは、この問題がフジテレビだけでなく、他の報道機関の世論調査の信頼性も揺るがしたと指摘しています。世論調査の数字は、各社のニュースで「民意」として大きく扱われます。その数字の作られ方を、報道機関自身が確かめていなかったことが問われました。
再発防止策の5つの柱
| # | 産経新聞・フジテレビの再発防止策(2021年1月15日公表) |
|---|---|
| 1 | 両社の担当者が調査に立ち会い、監視する |
| 2 | すべての調査票について、不正入力や誤入力がないか複数回確認する |
| 3 | 調査会社は、回答と結びついた通話の記録を提出し、一定期間保管する |
| 4 | 調査の再委託を認めない |
| 5 | 世論調査を担当する部署を強化する |
世論調査の不正は防げるようになったのか
産経・FNNは2021年1月に調査を再開
産経新聞とフジテレビは、2021年1月15日に再発防止策を公表し、同月中に合同世論調査を再開すると発表しました。現在も両社は電話による合同調査を続けており、9月の調査では支持率61.6%と発表しています。再発防止策の中心は、調査会社任せにせず、報道機関自身が調査の現場と記録を確かめることです。
他社は委託や検品の体制をどこまで公表しているか
各社は世論調査の記事で、調査の方式や回答数、回答率をおおむね公表しています。たとえば読売新聞は固定電話と携帯電話の回答率を分けて示し、時事通信は個別面接の有効回収率を示しています。一方で、調査をどの会社に委託しているのか、報道機関が現場に立ち会っているのか、データをどう検品しているのかまで公表している社は多くありません。産経・FNNの不正は、まさにこの見えない部分で起きました。
不正ではなくても結果が変わる、世論調査の「聞き方」
冒頭の表で見たような各社の数字の差は、不正によるものではありません。調査の方式や聞き方の違いによって、同じ時期でも数字は自然に変わります。
「重ね聞き」の有無で数字が変わる
「支持する」「支持しない」のどちらとも答えなかった人に、「どちらかといえば」と追加で聞くことを「重ね聞き」といいます。重ね聞きをすると「分からない」が減り、支持・不支持のどちらかに振り分けられるため、数字が高めに出やすくなります。Business Insider Japanの2017年の記事では、読売新聞と日本経済新聞が重ね聞きを行い、朝日新聞と毎日新聞は行っていないと紹介されています。各社の現在のやり方は公表資料で確認できなかったため、この点は過去の情報です。
質問の文言や順番による誘導への批判
同じテーマでも、質問の言い回しによって賛否の結果が変わることは、以前から指摘されています。質問の順番も影響します。Business Insider Japanの記事で専門家は、不祥事についての質問の後に支持率を聞くと支持率が下がりやすく、明るい経済の話題の後だと上がりやすいと説明しています。そのため多くの社は、支持率を最初に聞くようにしています。こうした設計の違いは不正ではありませんが、「結果を誘導しているのではないか」という批判の根拠として、たびたび挙げられます。
各社の調査方式の比較
| 調査方式 | 主な調査主体 | 特徴 |
|---|---|---|
| 電話(固定・携帯) | NHK、読売、朝日、日経、共同、産経・FNN、JNNなど | 無作為に作った番号に電話をかける。最も一般的な方式で、回答率は3〜5割程度 |
| インターネット | 毎日新聞 | スマートフォンの利用者に協力を依頼。回答者がネット利用者に限られる |
| 個別面接 | 時事通信 | 調査員が対面で聞く。「分からない」と答える人が多くなりやすい |
冒頭の表で支持率が低めだった2社は、毎日新聞がインターネット、時事通信が個別面接と、どちらも電話以外の方式でした。方式の違いだけで差のすべてを説明できるわけではありませんが、方式が違う調査の数字を横に並べて比べるときには、注意が必要です。
世論調査の数字を読むときのポイント
1社の数字より、各社の傾向を見る
Business Insider Japanの記事で、埼玉大学の松本正生教授は、各社の数字の差よりも、同じ社の数字がどう動いているかという傾向が大切だと述べています。ある社で支持率が数ポイント下がっても、他の社がそろって横ばいなら、大きな変化とは言えません。複数の社の数字が同じ方向に動いたときに、世論の変化とみるのが妥当です。
調査方法を公開しているかを確かめる
信頼できる世論調査は、調査日、調査方式、回答数、回答率を公表しています。これらが書かれていない数字は、どのように作られたのか確かめようがありません。とくにSNSで拡散される「支持率」の中には、出典や調査方法がはっきりしないものもあります。数字を見るときは、まず誰が、いつ、どうやって調べたのかを確認することが大切です。
報道機関の世論調査に求められる透明性
「民意」として報じる以上、作り方まで説明を
世論調査の数字は、ニュースの見出しで「民意」として扱われ、政治の動きにも影響を与えます。産経・FNNの不正は、その数字が、報道機関の目の届かないところで作られていたことを明らかにしました。当サイトは、報道機関が世論調査を報じる以上、調査方式や回答率だけでなく、委託先の管理やデータの検品の仕組みまで、読者に説明すべきだと考えます。
各社の世論調査を引き続き検証する
同じ月でも18ポイントの差が出る以上、1社の数字だけで「支持率が上がった」「下がった」と判断することはできません。当サイトは、各社の世論調査の数字と調査方法を、同じ基準で並べて検証していきます。
出典
- フジテレビと産経新聞の世論調査でデータ不正 過去1年間14回で再委託先が架空の回答(ニューズウィーク日本版)
- 産経・FNN合同世論調査で委託先が不正、計14回の世論調査取り消し(Bloomberg)
- 世論調査で架空回答を作成 フジと産経 14回分の放送と記事を取り消し(東京新聞)
- フジテレビ「架空データが含まれた一連の世論調査報道」に関する意見(BPO放送倫理検証委員会)
- 「産経新聞・FNN合同世論調査」の再開について(産経新聞社・フジテレビジョン)
- 報道各社の内閣支持率はなぜ差が出るのか。“単純平均”で見える本当の支持率(Business Insider Japan)
- 【高市政権の支持率】内閣改造後に3社微増:浮揚効果は限定的─9月報道8社調査(nippon.com)
- 新聞、テレビの世論調査・政党支持率まとめ(2026年10月)(選挙速報)
- 【3月世論調査まとめ】(PolicyNews)
- 高市内閣支持率51% 不支持32% NHK世論調査(NHK)
コメント